■はじめに
どんなゲームであれ、その作品の「ウリ」は気合を入れて宣伝するものである。これに対して、全く予想だにしなかった優れた点が後から判明することもある。今回扱うCeltic Kings: Rage of War(CKと読んで差し支えないだろうか)も、そんな作品の一つだ。
CKは古代ローマをモチーフにしたRTS。より正確に言えば、ガリア寄りの古代ローマモノで、若干のファンタジー要素が入ったRTS。開発元はブルガリアのHaemimont Games――トロピコ(3)で知られるシミュレーションゲームの老舗である。ローカライズはズーが担当し、発売は国外・国内ともに2002年。
■ マップが広い?
とはいえまずは、比較的表に出ている「ウリ」から見ていこう。公式サイトを見て、この作品の技術的特徴としてトップに挙げているのは「Large maps with up to 32000x32000 pixels」である。RTSの宣伝文句としてはなんと慎ましやかなものだろうか!そのうえ困ったことに、現代的な観点からすればそれほど広さを感じるものでもない。
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| 町はこんな感じ。シムシティは出来ないが、それなりに精密感はある。 |
しかしながら、「広さ」はさておき、CKが描く古代ガリア世界は、RTSとして結構面白い特徴を持っている。第一に、プレイヤーは建物を建てることが一切出来ない。その代わりに、マップ上には既に都市、村落、要塞等が点在しており、これらをめぐってゲームが展開していく。これらの施設とは別に、マップ上には様々なオブジェクトが存在している。その中には「中立モンスター」的なチュートン人の野営地、アイテムを回収出来る遺跡、近くに居るユニットを回復させる泉等々がある。これらの諸々の配置物によってマップの密度感は頗る良い。また、2DグラフィックスのRTSとしては最後発に属する作品なだけあって、絵柄は非常に緻密で雰囲気も素晴らしい。
■ ユニットが沢山出てくる?
次なるウリは「Support for 5000 units on the map」である。これ自体は作品のセールスポイントとしては正しいものの、ちょっと――コサックスライクな会戦シムを期待させるという点で、ミスリーディングな文句である。というのは、少なくともシングルのスカーミッシュで5000のユニットが一同に会して戦闘をするということはまずあり得ないからである。
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| 村の奪い合いをしているところ。戦闘はこんな感じの規模で行われる。 |
あり得ないとはどういうことか。ゲームシステムに即して見ていこう。まずユニットの生産の観点から。CKのユニット生産の方式はちょっと変わっていて、「町」の住人を軍事ユニットへと変換することで軍隊を生産するという、市民兵っぽいシステムになっている。何もしなければ「町」の住人は経済活動に従事しているため、徴兵はおいそれと出来るものではない。加えて、プール出来る「住人」の上限は一つの「町」あたり100しかない。人口自体はそこそこ回復するし、底上げする方法もあるのだが、さすがに100人規模の軍隊が列をなして出てくるようなゲームではない。
次に、軍隊の運用という観点から。CKの戦争はヒーローを軸にやる。詳しく述べると、それぞれの軍事ユニットをヒーローユニットに紐付けすることで、ヒーローを指揮官とするユニットのまとまりを一つの部隊として運用するのである。このことでそれぞれのユニットは様々な恩恵を受けることが出来るのだが、一人のヒーローが麾下に置くことの出来るユニット数の上限は50までである。当然、100人もヒーローが出てくるゲームではない。
■ヒーローは町づくりをやらない
CKが箱庭ゲーでも、会戦ゲーでもないことは分かった。ではなんなのか?――おそらく、RPGであるとみなすべきである。キャンペーンがそういう体裁を強く打ち出しているというのもあるが、RPGと書いたのは、既に出来上がっているシチュエーションの中で、部隊を率いて村々を旅し、味方を集めて部隊を強化していく、というプロセスがRPGライクということだ。
微妙に伝わりづらい比喩を使えば、マウントアンドブレードのRPG要素をすごく薄くして、RTSの文法に落とし込んだ作品、という感じである。
M&Bっぽさはヒーローユニットだけでなく、一般ユニットにもレベルとインベントリが設定されているあたりにもある。 そのうえ、レベルは敵ユニットとの戦闘だけでなく、味方ユニット同士で訓練をすることでも上がる、というあたりが実にそれっぽい。加えて、高レベルのユニットは性能だけでなく、微妙に外見も変化するため、ユニットを使い潰すのではなく、温存しながら大切に使うという楽しさはある。
加えて、ゲームで描かれる時間的・空間的な広がりもRPGライクである。この作品は、ヒロイックなキャラクターが軍閥を興す様を描くもので、更地から文明が興って滅びるまでを描くものではない。このことを念頭におけば、先ほどの「マップが広い」という不可解な宣伝文句の謎も解けよう(多分RPGの面白さにとって、マップの広さは構成的だ)
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| みんな大好きヴァルキリー的な人達も出てくる。ケルト系おじさんを差し置いてガリアの最精鋭ユニットだったり。 |
つまるところ、CKにおいてプレイヤーの役どころは比較的明確に決まっていて、「放浪軍の指揮官」みたいな感じである(これは古代ヨーロッパ軍事史的な用語ではなく、コーエー的な用語である) 。その役割は、都市を良く統治することでも、新しい農地を開拓することでもない――だから、建設要素は尽くオミットされている。そのかわり、指揮官が気をつけるべきことは2つ、軍資金の調達と食料の確保である。
■どうやって部下を食べさせるか問題
ではここで本作の資源管理と兵站システムを概観しよう。CKの真に独創的な部分はここである。CKには金と食料という2種類の資源がある。金は軍隊の生産に、食料は民生と軍隊の維持に使用される。ここまではさして珍しいことではない。
特徴的なのは、これらの資源は(画面右上の方とかに一括して備蓄されるのではなく)常にマップ上の特定の場所に存在しており、資源を利用するためには輸送ユニット(ロバ)を使って、ある場所から別の場所へと資源を動かす必要があるということだ。
同時に、CKでは、あらゆるユニットは食料を必要とする。ユニットが携行している食料が尽きてしまうと、HPが徐々に減っていく。軍隊が飢餓状態に陥ることを避けるためには、近くに食料が存在している必要がある。食料は「村」で生産されるのだが、したがって軍隊が村に駐留している間は問題ない。だが、長距離の遠征に出す場合、遠征軍に食料を積んだロバを随伴させ、なおかつ(場合によっては)、策源地と前線の間の安全を確保する必要がある。
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| こんな感じで食料の輸送を設定できる。右上の砦は3つの村から食料を供給されている。中央下の村には軍隊が駐留している。 |
この、食料とロバについてのルールは、少なくとも発想としては、色々な面白い遊び方を提供している。食料は村に備蓄しておいてもいいが、村の防衛は脆弱である。だから、より守りやすい近くの砦に食料を集約し、一大補給基地をつくろう、とか。 あるいは逆に、機動力のある騎兵を敵の後方に浸透させ、防衛の手薄な村を襲って食料供給を断ち切ることもできる。このとき、占領するつもりのない村であれば、村の住人を強制移住させて、農地を荒廃させてもよいだろう。
■ RTSにおける補給の概念
実際のところ、CKのプレイフィールは、まったく大作RTSという感じではない。勢力はローマとガリアの2つしかないし、資源は金と食料の二種類のみ。ユニットの種類も一勢力あたりギリギリ片手で数えられれないくらいしかない。時代の変化の要素もなく、したがって、技術の種類も両手でギリギリ数えられないくらいしかない。一応ヒーローユニットがウリということになっているものの、魔法をぶっ放して戦況を覆したりするわけではない。しかし、――それゆえにゲームバランスは頗るよく、「シンプルだが奥深い」――と続けるかわりに――しかし、この兵站の要素だけは、同時代の作品と比べて突出した、というかジャンル全体としても珍しい特徴であるとがあると本稿は続けたい。
もっとも、兵站というか補給のルール自体は、様々な形でRTSに取り入れられてきた。保有出来る軍隊の上限が<サプライデポ>の数によって決まるというような、馴染みのポップキャップ制度は明らかに補給についての問題を提起している(他方CKにポップキャップはない)。この他にもユニットの数に応じて一定の資源が常に消費される(コサックスなど)とか、ユニットに弾薬の補給が必要(WarGameなど)とか、領土外での損耗(RoN)とか、領土間の接続の必要性(CoH)とか、補給をめぐっては様々なルールが考えられてきた。
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| これが噂の補給ロバ。食料を備蓄していた砦が陥落して脱出してきたところ。 |
これらの補給ルールの役割はなんだろうか。これらのルールが規制するのは、経済規模に見合わない軍備の拡張や、 戦況から考えて不自然な軍隊の機動である。多くの場合これらはラッシュ対策に組み込まれているのだが、より一般化して言えば、プレイヤーが無理な攻勢に出ることを抑制していると言えるだろう。
これに対して、CKの兵站のルールは抑制的である以上に、プレイヤーが様々な戦略とることを可能にし、ゲームの展開の幅を広げるという可能性を開いている。第一に、食料による制約は硬直的というよりも弾力的である。サプライリミットとは異なり、維持できるよりも大きめの軍隊を、無理なく展開出来る範囲よりも遠くに展開することが出来る。これらの選択はそれ自体無理筋かもしれないが、犯す価値のあるリスクかもしれない。
第二に、CKにおいて、食料不足はむしろ攻勢を誘発する。というのは、敵の村を占領し、そこからあがってくる食料を徴発し続けるというブルータルな現地調達戦略が有効である局面が少なくないからである。
多くのRTSでは、軍事ユニット、労働者、生産施設をめぐってゲームが展開する。CKでは、これらに「食料の奪い合い」が付け加わる。繰り返しになるが、軍事ユニットの生産に食料は必要ないため、食料がなくなったからといってすぐに投了とはならない。もちろん、長期的には食料が無いと何もできなくなるが、お金が余っていたり、微妙に軍隊の規模が大きかったり、主力部隊が有利な場所に居たり…といったトリビアルな優位を活用して挽回することは容易である。加えて上記のように、食料を確保する、または相手の食料確保を邪魔する方法にも様々な策が用意されているので、次の一手を考えるのが楽しいし、展開も多様になる。
とはいえ、このあたりの展開の自由度――というかゲームシステムの「ゆるさ」について、実際のところゲームバランスはどうなのよ?という問いは立てられねばならない。 実際にバランスが良いかというと、「マルチをやっていないからなんとも言えないが、ゲームバランスはおそらくあまり上手くまとまってはいないのではないか」と答えなくてはならないかもしれない。問題は、兵站のシステムが長期戦向けに設計されているのに対して、ゲームの長さは比較的短く、テンポよく進むという点にある。これは前回見たEEと同様、RTSにおけるロングゲームの問題を提起している。加えて、飢餓状態のペナルティが弱いようにも感じられ、折角の兵站のシステムの存在感を損なっている。
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| 滅茶苦茶強そうで格好いいチュートン人。中立MOB的な役どころである。実際弱い。 |
■ まとめと問題提起
CKは大作感こそないものの、非常にとがった作品である。ゲームシステムに加えて、ゲームの中での出来事の生起や時間の流れ、地理的な広がりなどが、RPGライクに作られているため、独特の厚みがある。
補給に関わる一連のシステムは、非常に独創的なものだ。これはそれほど煩雑にならない形でプレイヤーの戦略とゲームの展開に幅をもたせているものの、ゲームバランスがそれに噛み合っていないという問題点もある。
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| このゲームはキャンペーンを軸に作られている感はあるが、そうすると補給のルールはやや蛇足的だ。 |
■以下すてま
・おそらくGoGで購入するのが手っ取り早い。英語版だが6ドルくらい。
・日本語版はズーより「ガリア新戦記」 という副題がついて出ている。ズーが気合を入れてRTSを出していた頃の作品で、体験版や詳細なマニュアルもある。対戦イベントとかもやっていたらしい。幸いなことに、アマゾンに中古は潤沢にあるようで、実際安い(最近のPCで動くかは不明)
ステマここまで。
■ 参考にしたリンク等
・ Haemimont Games公式
http://www.haemimontgames.com/celtickings/
・ズー公式
http://celtickings.zoo.co.jp/
・政治とRTS専門ブログ 氏
http://rtsgame.blog44.fc2.com/blog-entry-2.html
詳細でわかりやすいゲームシステムの解説など。








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