2014年1月30日木曜日

Empire Earth: マルチエラRTSは可能だったか (RTS歴訪①)

■どんなゲーム?


 エンパイア・アース(以下EE)は歴史モノのRTS。2001年発売。最大の特徴は、先史時代から未来に至る14の時代を扱ったマルチエラRTS(と呼ばせていただこう)という点。また、当時としては稀有なフル3Dの作品で、ズームした際の臨場感がウリだった。
 EE自体は一時代を築いたといえなくもないシリーズで、拡張版が2002年に、EE2が2005年、EE3が2007年にリリースされている(ただし、後2作の開発元は別)。
 開発元はStainless Steel、発売元はSierria(Homeworldとかのパブリッシングで知られる)。AoEのデザイナーだったリック・グッドマンの名前で売っていて、日本語版のキャッチコピーが「正統な後継者」だった筈。さて、後継者の実力やいかに。




■概要的な評価



OPより (なおこのロポットは本編に出てこない模様)

 今プレイをしても、色々な意味で大作感があり、非常に野心的な作品だったという印象を受ける。 都合14の時代があり、それぞれの時代に固有のユニット・建物・テクノロジーがあり、これらは総体として見ると膨大かつ複雑。そのうえ、時代が変わることでゲームの仕組みが様々に変わる(後述)のだが、それぞれの時代を切り出して、例えば「中世モノのRTS」単品としてみても、それなりに中世している(中世前後も合わせると時代が3つくらいはある。スゴイ!
 GoG版を買ったが、動作は良好で高解像度にも対応している。全く期待していなかったグラフィックは、拡大すると相当きついが、カメラを引けばそこそこ見れるレベルではある。全体的にデザインはリアリスティックというよりはコミカルな感じで緻密感は残念ながらない(当時もなかった)。とはいえ、音響やモーションは当時の水準からすると結構良く出来ており、攻撃の当たり判定も丁寧にやっている(?)らしく、APMさえあれば弓矢くらいなら避けられる。
 ちょっと残念なのは、文明によるユニット・建物の見た目の変化はない点(固有ユニットもない)。全部西欧風で微妙なユーロセントリズムを感じるが、3000年ずっと戦争をやって来たヨーロッパ史を描いたゲームなのだ!と思うことにする。

キャンペーンより:ノルマンディー公暗殺の企てを聴き、咄嗟にジャグリングを始める道化

 往年のゲームにふさわしく、ギリシャ(古代)・イギリス(中世-近世)・ドイツ(近現代)・ロシア(近未来)の4本のキャンペーンがある。最近はキャンペーンがあって1本というのはザラなので、これは実際うれしい。作り自体は全く珍しいものではなく、RPG的な要素とかは皆無。それでも普通に楽しいのは、シナリオ毎にシチュエーションが多様(「イギリス艦隊の海上封鎖を突破して、船団を護衛せよ」とか)というのと、時代設定の違いからそれぞれが殆ど別ゲーとなっているので、飽きたら別のキャンペーンを進めればイイ、という懐の広さゆえだろう。話としてはムービーの寸劇が多少付いている程度ではあるが、時代と展開の多様性もあり、貧相な感じはしない。これも時代を感じるが、200p超のマニュアルがついてくるのもナイス(扉絵が格好いい)。

■数々の特徴的な要素

次に、マルチエラに留まらないEEの特徴的な要素を順に見ていく。

①一部ユニットは、動きながら攻撃できる


戦略爆撃機の絨毯爆撃が超格好いい!

  地味ながらRTS史的に結構画期的だったと思われる点がこれである。RTSは右クリックが移動命令と攻撃命令を兼ねるので、「ユニットが動きながら攻撃できる」システムを作るのが非常に難しい。ところが、EEの空軍ユニットは動きながら攻撃出来る。しかも、敵機の後ろを取るような機動をとりながら攻撃出来る(同時代の空軍表現については、スタクラみたいな感じである)。尤も、そのことで空軍ユニットの操作性が改善されたか?というと全くそんなことはないのだが、RTS表現上の画期ではあっただろう。


②独特な内政システム

EEの内政システムはAoEライクのとっつき易いものなのだが、ちょっと独特な点もある。

ユニット数上限は住宅を建てて増やすことは出来ず、ゲーム事に予め固定。マッチングの最初に決めたリミット(50~1200くらいまである)を、プレイヤー人数でシェアする。

 ・その代わり「住宅」はユニットの士気を高めるのに使う。士気とは、「町の中心」の近くに居るユニットに与えられる防御ボーナスのこと。これは、「町の中心」の効果範囲内にある「住宅」の数によって累積される。

・「町の中心」は市民を「定住」させることでアップグレード可能。当該施設での資源収集時にボーナスがつく。

左から順に、「首都」・「町の中心」・「居留地」。分かりづらいが、ユニットの下側の円が士気で、画面右上の緑色の線が首都の効果範囲。

 ざっくり言えば、戦争にしても内政にしても、自領の発展した地域で行うのが有利ということである。このシステムは(直接的にはラッシュ対策だが)、内政における建物配置を考えさせる箱庭ゲー的な要素である。そのうえで、自領の地域を差別化し、マップ上に濃淡を書き加えることに一応貢献しているといえる。
 この点をもう少し突き詰めて考えると、RTSにおける(都市)景観とゲームシステムの関係と いう問いに行き着く。今後検討していくことについて、問題提起だけしておこう。多くのRTSはシムシティではない。しかし、シムシティと似ている所はあ る。例えば、建設上の操作効率から家は並べて建てるかもしれない。或いは、生産の関係から兵舎はまとめて建てた方がいいかもしれない。これらの要素はプレ イヤーが意図しなくても、結果として何らかの「景観らしきもの」を構成するように思われる。これらは所詮「見た目」や「感じ方」の問題ではあるが、しか し、ゲームの体験における重要な一部ではある。どのような景観がどのようなゲームシステムによって作られているのか、またそのことはゲームの体験においてどのような意味を形作っているのか。この点については継続的に考えていきたい。

③色々弄れる

マルチエラを除けば、EEの最も際立った部分――良くも悪くも――がこれ。前述の通り、EEには文明固有のユニットや建物、テックツリーというものはない。その代わり、文明毎に「騎兵の攻撃力が+20%」みたいなボーナスが複数与えられることで差別化されている。
 いや、正直なところ、このボーナスは数ゲームしただけでは実感することが難しく、差別化はあまりうまく行っていない。しかし、 このボーナスを自由に組み合わせることで、オリジナルの文明を作ることも出来るという点は新しい


「町の人の生産時間ダウン」とかいう驚くべき項目もある

 オリジナル文明の作成は、ポイントの割り振りという形で行う。有効なかつ同系統のボーナスほど沢山のポイントを必要とするので、(対人戦に耐えられる水準かはさておき)一応バランスも考慮されているようだ。
  加えて、ユニットのアップグレードも特徴的である。EEでは、ポイントを割り振るという形で比較的自由にユニットの強化を行える。強化可能な項目は、攻撃 力・防御ボーナス等に加えて、移動速度や射程といった、ユニットの使い勝手の根幹に関わる部分も含まれている。そのため、「防御力とHPを伸ばした弓騎 兵」とか「足の早い槍兵」といった、個性的な方向にユニットを強化することも出来る(ただし、それほど極端な特化は出来ない仕様になっている)。


強化に特別な施設は不要。資源さえあれば、どこでも行うことが出来る。

 繰り返しになるが、マルチには全く触っていないので、これらのカスタマイズ可能な要素が、プレイヤーの戦略の多様化をもたらしたのか、強文明・強オーダーへの収斂をもたらしたのかは判断が出来ない(まあ後者だろう)。しかし、作品の方向性としては、プレイヤーの選択肢を要素を量的に拡大していくことで、収斂を克服するという、ある意味で非常に明快な代替案を打ち出していると感じられる。近年の精緻なバランス調整を売りにした作品とは異なる、試行錯誤と独創性に開かれたRTSという可能性がそこにはあったのかもしれない。

■色々な意味で時代を感じさせるランダムマップ


 では実際に遊んでみよう。まずはランダムマップで腕鳴らし、と思ってみると、色々な所で面食らう。まず驚くべきは、びっくりするようなゲームのテンポの遅さである。とりわけ、ゲームの立ち上がりの遅さがスゴイ。たとえば、先史時代から石器時代に進むには、1000程度の食料が必要になる(尚、ワーカーの生産に必要な食料は50)。これに先史時代の劣悪な生産性を以ってすると、冒頭10分くらいは、ただひたすら食料の回収を見守るという、スローライフな展開になる(その代わり、内政基盤が整ってしまえば、あとの展開は幾分楽になる)。 
 次に目につくのはAIチートのきつさ。資源にかなりきつめのアドバンテージがあるらしく、AIの出足の早さがすばらしい。こちらが最初の兵舎を建てる頃には、AIは本格的な軍隊の運用を始めており、こちらが最初の資源採集ポイントに手を出そうとした頃には、残りの全域がAIによって手を付けられており、こちらが最初の塔を建てた頃には、AIのテリトリーは全集防御が固められている、という始末。AoE2のAIも大概だった気はするが。 とはいえ、プレイヤーが秒殺されるかというと必ずしもそうではない、という所が面白い。少なくとも難易度Mediumでは、AIがプレイヤーに時代・技術で先行することはあまりないらしい。というか小憎らしいことに、こちらが時代を進め・ユニットをアップグレードした瞬間に、あちらも時代を進め・ユニットを進化させるという展開が目立つ。加えて、攻勢の掛け方が端的に下手――この時代のRTSに優れた戦術AIがあったかは別として――で、諸兵科連合をうまく組めない模様。そのうえ、塔が非常に強い(というか、古い作品ほど塔が強い傾向にあると思うのだが)ので、篭っている限りにおいては幾らでもやりようがある、というバランス。
 こちらが優勢になった時のAIの粘り強さもすさまじく、主力軍が焼け野原にした土地に、どこからともなく労働者が湧きだしては、こっそりと基地が再建され、第二、第三のどころではなく、第六、第七くらいの敵拠地が何度も蘇ってくる。結果として、大勢が決した後も、残党というかゲリラを掃討するのに、相当な時間と兵力を割かなくてはならない


開始10数分でこれである。右下ミニマップをご覧になられたい

 強いAIが作れなかったにしても、このような歪なゲームプレイになってしまった理由は簡単に想像がつく。 要するにこれは、「沢山の時代を用意したから、プレイヤーには沢山の時代を通して遊んでほしい」というデザイン上の意図の現れであろう。AIに序盤の優位を与えて、ラッシュが決まるのを防いだ上で、決戦一発でゲームが決まってしまうような要素を極力排して、できるだけロングゲームになるように設計されているのである(少なくともAI戦は)。

■ マルチエラRTSとしての要素は噛み合っているか?


 ゲームが長引くような設計自体は、近年のトレンドとは真っ向から反するものの、悪いことではない。問題は、ゲームの他の要素が、ロングゲームを前提としたデザインと上手く噛み合っているか、という点である。
 少なくとも対AI戦に関して言えば、前述の、プレイヤーとAIの時代差が生じにくいような調整がされていることは、マルチエラというゲームの面白さを完全に破綻させている。この手の作品の醍醐味であったはずの、時代進化(によって生じる一瞬のバランスの変化(即3Rみたいな)を活かせないためである。加えて言えば、多くの人が夢見たかもしれない、「棍棒で武装した原始人集団がロボット軍団とボズワース平原で激突!」みたいなヒストリカルバカゲーとしての方向性も(バランスの制約もあって)、潰してしまっている。
 また、資源バランスもちょっと良くない。EEの資源は5種類あって、食料・金・鉄鉱・石材・木材である。 このうち、食料は畑から無限に生産され、金・石材・鉄鉱は先史時代から未来まで、まず枯渇することのない強力な鉱床がある(AoEみたいな事態にはならない)。問題は木材で、特に海軍を使う島マップの場合、島内の木を伐採し尽くしてしまうという事態が起こりうる。かといって、数千年伐採し続けられる森というのも不自然なものだし難しい(AoEでは終盤になると森が拓けて開拓した感があってよい)。
 このような問題はあるが、時代ごとのプレイフィールの変化はなかなか良い線を行っている。とりわけ、戦争のルールが一変する歴史的なタイミングをまがりなりにも描写できている稀有な作品である
 どういうことか。例えば騎兵ユニットについて、[弱い騎兵]→[ちょっと強い騎兵]→[もっと強い騎兵]というテックツリーがあったとする。ツリーが進むにつれ、個々のユニットは少しずつ強くなっていく。また、アーリーゲームに強いユニット(群)とレイトゲームで活躍するユニット(群)というものもあり得る。しかし、多くの場合、ルール総体における騎兵ユニットの役割は変化しない(槍に弱く・弓に強い的な)。

戦車の時代が来た!と思えど、依然として砲兵が超強力だったり

 これと異なってEEは[もっと強い騎兵]のその次の時代へと進んでゆく。それは[もっともっと強い騎兵]の時代ではなく、騎兵が廃れた時代のゲームである。そこにおいて、騎兵ユニットが一画を占めることで成立していたゲームのルールは、戦車とか航空機を含むような、質的に異なったルールによって書き換えられるのである。おおよそ、ゲームのルールの構造的な変化は、大体3つくらいの時代毎にやってくる。このような歴史的変化のインパクトと重みは、16もの時代を使ってこそ描けたものであろう (尚、陳腐化して生産ができなくなったユニットは、首都の横に置いておくと捗る)

■歴史の決着がつくのはいつ?


 このように、「古代モノのRTS」・「中世モノのRTS」・「現代戦RTS」…をそれぞれ縦につなげたようなゲーム設計は、まあそれなりに面白いのだが、古代から未来まで通しでプレイする必然性はやっぱりあまり感じられない。 歴史上のあるタイミングで「決着」がついてしまえば、ゲームはそれで終わりであり、「決着」を引き伸ばす理由は特に無いためである。
 これはもしかすると、RTSというジャンルの限界かもしれない。マルチエラのストラテジーゲームの雄である、Civ系――というか4Xストラテジーと比べてみるとわかりやすい。4Xモノは、RTSに比べて、はるかに出来ることが多い。植民地の入植、研究の手配、文化の拡散、外交関係の調整…等々である。これに対して、EEは――というか大抵のRTSでやっていることは、軍備の拡充と戦争に収斂してしまう。4Xストラテジーにおいて、戦争は国力を高める手段の一つでしかないが、RTSにおいて戦争は目的そのものである。RTSも4Xストラテジーもレースゲームという点では共通しているが、この違いが、RTSにおけるロングゲームを収まりの悪いものにしているのである。


 Civ4のマルチは何度かやったことがあるのだが、ライフル兵とカノン砲が出来る頃には大勢が決している感はある。月並みな解釈をすれば、「19世紀くらいに歴史の決着がつく」というCiv史観は、なんとなくヒストリカルな裏付けがあるような気がする。EEで対人戦をやったら、大体どの時代で決着がつくのだろうか。おそらく、ナノテク時代に至るまでにらみ合いを続けるということはないだろうが。


 

■まとめと今後の課題

今となっては珍しいものとなってしまったマルチエラのRTSだが、EEその嚆矢であった。同作のボリュームの多さは、ゲーム展開の質的な変化を担保していた。また、オリジナル文明や、ユニットの強化における自由度の高さは、プレイヤー側の選択肢を増やす方向性でのゲームバランス調整の取り組みとして興味深い(これらの要素は、部分的にはAoE3のカードシステム等に引き継がれていると言えなくもない)。
 マルチエラRTSとしてのEEの問題点は、戦争しかやることがないにも関わらず、戦争が長引くという点に尽きる。RTSのゲーム展開の緩急はどのようなものが望ましいのか、また、適切な1ゲームあたりのプレイ時間はどのようなものか。そもそも、ロングゲームを前提にゲームを設計することは是とされるのだろうか。これらはジャンルに共通する問題でもある。今後、様々な作品を通して検討していきたい。



 

■どこで買った/買える?


 10数年前に秋葉原のサトームセンで買ってもらった――のは友達に借りパクされたので、GoGで購入。6ドルくらい。尚、ローカライズはカプコンがやっていた模様。
 個人的には結構な良訳だと思っていて、原文だと「Cataphract」なのが、日本語版だと「カタクラフト剣騎兵」になっていたりする。(カタクラフトが剣騎兵なのかはさておき)「カタフラフト?なんぞこれ」とならずに、ユニットの役割を端的に理解出来てよいと思った。






 

以上すてま

■参考にしたリンク等


 ・カプコンの旧公式 (インターネットアーカイブで見れる)
http://www.capcom.co.jp/pc/empireearth/index.html
公式の特集記事の気合の入りようが凄い。キャンペーン攻略まである。

 ・Game Watchによるインタヴュー記事
 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011108/ee.htm
マルチプレイのバランスの話など。

・4亀によるプレヴュー記事
 http://www.4gamer.net/previews/pre_ee.html
発売前のプレヴュー記事なので独特の趣があってよい。

0 件のコメント:

コメントを投稿